紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  本の紹介

 広瀬 隆 著: 原子炉時限爆弾 −地震におびえる日本列島−

        2010年発行 ダイアモンド社 283頁

(本の構成)
 
序章   原発震災が日本を襲う

第1章  浜岡原発を揺るがす東海大地震

第2章  地震と地球の基礎知識

第3章  地震列島になぜ原発が林立したか

第4章  原子力発電の断末魔

巻末資料 地震学用語などについての解説(本文とは別に22頁)

 著者は、早稲田大学卒業後、大手メーカーの技術者を経て執筆活動に入り、これまで、著作を通して原子力の危険性を訴えるとともに、反原発の市民活動を展開してきており、これらの経験を踏まえ、調査に基づいて本書を福島第一原発事故の前に出版されている。

 筆者(私)は、東日本大震災で起こった福島第一原発の深刻な事故に強い衝撃を受け、当ホームページに記事を掲載するなど、浜岡原発の危険性について危機感を持っていたが、そんな時に、本屋の店頭で本書のタイトルに目が行き、手にとって目次をみると、浜岡原発についてかなり詳しく書かれていたので、これは読まなくてはと購入した次第である。その後、忙しさにまぎれて積んだままにしていたが、お盆休みになってやっと本書を通読した。

 本書を読んで、まず、著者が東日本大震災によって福島第一原発事故という大災害が発生する以前に、大地震による原発事故の発生を心から心配し、やむにやまれず本書を世に送り出したという先見性と熱い思いに敬意を表したい。また、著者は、電力会社、経済産業省の原子力安全・保安院、原発村の利益団体・御用学者等が原発の危険性やリスクを軽んじ、あるいは情報を隠し、事実を歪曲しながら原発推進を図って来たことに強く憤り、原発の事実を直視して安全確保を図ることを求め、我々市民に対しても、原発の危険性をもっと知って欲しいと訴えるために、原発と地震を巡る状況を本書で詳細に示している。筆者(私)は、これまで自分で原発の危険性についてわずかばかり調べたが、本書の内容は、科学的技術的に極めて的確かつ詳細に説得力を持って書かれているので、1つ1つ納得し、感動しつつ読んだ。本書は、いうまでもなく、SF小説ではなく、原発と地震を巡る科学的技術的内容を書いたものであるにもかかわらず、非常に興味深く読むことができ、しかも、著者の人々を守りたい、日本を原発震災から救いたいという、ふつふつとした熱い思いが伝わってきて、久々に感銘を受けた本であった。

 著者は早稲田大学で学び、大手メーカーで金属材料関係の仕事に携わり、さらに、これまでいろいろな原発事故を分析してきただけあって、原発と地震に関する内容が専門家以上の見識を持って書かれており、しかも、専門外の筆者でも理解できるように図表が多く使われ、わかりやすく書かれているので、市民が原発と地震との関係を正しく知り、理解しやすい。

 本書を読んで、多くの原発の建設が、最近の地震学の進歩以前になされ、あるいは、後から付け刃的に補強され、あるいは、近くの活断層の評価が電力会社に都合の良いようにねじ曲げられるなど問題だらけであり、また、原子炉の冷却システムは大地震により容易に破壊され、大事故に至ってしまうであろうことを良く理解でき、このままでは、第2の福島第一原発事故、あるいはそれ以上に甚大な原発事故が起きても不思議ではないと思わざるを得ない。

 今回の福島第一原発事故を反省し、政府は安全性を審査する原子力安全・保安院を原発推進の経済産業省から分離し、環境省外局の原子力安全庁として再編する方向を打ち出している。願わくは、本書で指摘された様々な問題点について、原子力村に関係しない第3者の専門家による審議会で徹底的に調査・検討してもらいたい。そして、安全性が確保できない原子炉は全て廃炉にしてもらいたい。しかし、環境省はかつて地球温暖化防止のための炭酸ガス排出量の削減を原発の大幅な増設によって行うというシナリオを是認したことがあるので、原子力安全庁の設立に際しては、原発事故への深い反省から、明確に原子力規制の立場に立つことを宣言してもらいたい。また、脱原発を後退させるような首相が誕生すれば、安全性確保があいまいになりかねない。そうならないように、市民が監視し、行動していかなくてはならないと思う。

 福島第一原発事故によって、多くの市民が原発の危険性について目を覚まされたのではないかと思うが、本書は、地震国日本における原発のあり方を考えていく上で、避けて通れない本であると思う。是非、一読をお勧めしたい。2011.8.14  M.M.)  


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